令和5年10月13日、当支部と川崎、相模原、横須賀の四支部合同にて講演会を開催いたしました。ご講演をしてくださったのは、裁判官として多くの無罪判決を出され、現在は弁護士としてご活躍をされている木谷明先生です。『「愚直・鈍重・馬鹿正直」が生んだ無罪判決の背景』というタイトルの下、ざっくばらんなお話しを賜りました。
木谷先生は、約2時間の短い時間の中で、ご自身が扱われた9件もの事案について詳細なご解説をしてくださいました。特に印象深かったのは、刑事裁判における自白をめぐる議論です。
我々弁護士にとり、自白を安易に信用してはならないことは、誰もが思うところです。刑事手続における被疑者は、多くの場合、逮捕・勾留により身体を拘束された弱い立場にあります。密室の中で、捜査や法律の専門的知識を持った検察官・警察官を相手に、取調べを受けなければなりません。そのような環境の中、数々の事件で自白の強要や虚偽供述の誘導がなされてきたという歴史があります。
この自白の信用性の問題について、木谷先生が裁判官時代、どのように対峙されてきたのか、様々なお話しをお聞きすることができました。単なる精神論ではなく、客観的な証拠や経験則から、どのように自白の矛盾や捜査機関の捏造を見抜くのか、豊富なご経験に基づく数々のエピソードをご教示いただきました。木谷先生ご自身は、「愚直・鈍重・馬鹿正直」と表現されていらっしゃいますが、数々の証拠や調書について、偏見に囚われず真正面から向き合い検討することの重要性を、あらためて実感いたしました。
また、今回は四支部合同の企画でしたので、当支部の会員のみならず、他の三支部から多くの弁護士が出席しました。活発な質疑応答がなされ、また講演後に開かれた懇親会では、木谷先生を交え、たくさんの情報交換ができたようです。弁護士にとって、刑事弁護、特に無罪事件は重大な関心事です。当支部では、今後も刑事弁護の技能研鑽のため、様々な講演や研修を実施していく予定です。