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弁護士コラム

27
November
2020

「出来ることから」(支部旅行コラム)

執筆者 : 山﨑 夏彦

 令和元年度の研修旅行では、11月9日から10日にかけて、県西支部有志21名で、福島県双葉郡の富岡町などを訪ねました。
 私自身、平成25年4月以降に地元である小田原市に戻って弊所を開所するまでの間、縁あって福島市内の弁護士事務所で執務を行っていたことから、双葉郡の方へは、震災前に何度か訪れたことはあったのですが、震災後は初めてのことでした。

 当日は、東京電力廃炉資料館を見学するとともに、いわき市在住で、「涙活」ふくしまや、復興支援「ふく風レオ」代表などとして活躍される猪狩弘之さんのコーディネートのもと、平成29年4月1日に、北東部の一部を除き、避難指示解除準備区域及び居住制限区域を解除された富岡町の市街地や今もなお帰還困難区域として一般人の立ち入りが禁止されている同町北東部との境界などを巡りました。

 居住制限区域等を解除された地区と帰還困難区域とを結ぶ道路上の境界には、バリケードフェンスが置かれ、福島第一原発の廃炉作業のために行き来する車両以外の往来がないよう、常に監視されているようであり、バリケードフェンス越しに見えたあちら側の景色は、原発事故時から時が完全に止まってしまっている様子でした。

 また、居住制限区域等を解除されている同町の市街地を巡っている内、私は、この町の雰囲気が、どこか「普通」の町と異なるような奇妙な感覚に襲われました。
 それは、単に閑散としているという言葉では表現できないような異質なもので、私自身、「普通」の町と何が違うのか明確に分からない、答えの見えない間違い探しを続けているような感覚を持ったのです。
 その後、この間違い探しの答えは、コーディネーターの猪狩さんのお話を聞いてすぐに理解できました。

 インターネットで少し調べたところ、平成29年4月1日に居住制限区域等を解除されて以降、令和2年1月末日時点までの富岡町の「帰還者」数は、1205人とされているようですが(なお、震災当時の同町の人口は、1万5830人であったようです。)、この「帰還者」とは、文字通り、原発事故以前に同町で暮らしていた人の内、同町に帰還した方の人数を示すものではなく、新規転入者も含む数字であるとのことです。

 そして、猪狩さんによれば、私たちが訪問した当時、同町に「帰還」して暮らしている人のほとんどは、福島第一原発の廃炉作業員として、同町に転入された方々であり、原発事故以前に同町で暮らしていた人が実際に戻ってきて生活しているわけではないとのことでした。
 私の感じた違和感の正体は、まさにこの点にあったようでした。
 この町には、人々がそこで実際に暮らし生活している雰囲気、生活感を圧倒的に感じることができなかったのです。
 私たちが市街地を巡っている間、町の市街地には、休日であるにもかかわらず、小さな子どもを見かけることは一切ありませんでしたし、若い夫婦やカップルなどを見かけることもありませんでした。

 この町自体、平成29年4月1日に居住制限区域等を解除されてはいるものの、現状は、廃炉作業員の町として機能しているのみで、原発事故から9年以上経過した現在においても、そこで人々が暮らし当たり前に生活するという、原発事故以前のような「普通」の町として復興したとは到底言えない状況であるということが実態であったのです。

 今回の研修旅行によって、より強く実感したのは、他の被災地と原発事故によっても被災した福島とでは、その被災状況や復興状況が決定的に異なるということです。

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、福島はもとより、東北地方は、地震や津波によって、筆舌に尽くしがたいほどの甚大な被害を受けました。
 私の妻の実家も津波により流されてしまい、一昨年までは仮設住宅での生活を余儀なくされていました。
 しかしながら、震災から9年以上経過した現在では、妻の実家も幸いなことに津波の来ない高台に新居を構えて暮らすことができるようになっただけでなく、津波で流されてしまった町自体も、新たな商業施設などが開設するなど、完全に復興したとは言い難いものの、日々、復興を実感できるようになりつつあります。

 ところが、原発事故によっても被災した福島においては、原発事故当時から時が完全に止まってしまっている帰還困難区域内はもとより、このような指定が解除された地域であっても、現在、「普通」の町としての復興には程遠い状況であり、原発事故の影響によって、現在進行形で被災している状況にあるのです。

 「原発事故により、自然が破壊されたのみならず、ふるさとを人が住めない町にされて追いやられ、家族や地域コミュニティを分断・崩壊させられた、このような苦しみは福島で終わりにしたい」との猪狩さんの言葉が強く胸に刺さりました。
 また、私自身、原発事故当時は、その日の福島市内の放射線量データに一喜一憂しつつ、外出時には、被爆を避けるためにワラにもすがる思いで、欠かさずマスクや外出時専用の上着やズボンをスーツの上から着用して日々生活していたことを思い出しました。
 今回の研修旅行によって、改めて、当たり前に「普通」の町で生活できる幸せを感じるとともに、省エネによる原発に頼らない社会の実現に思いを馳せた私は、旅行から帰宅後すぐに、寒がりな妻に内緒で、そっと暖房温度を1℃だけ下げたのでした。

追記
 本コラム執筆時点(令和2年4月8日)で、いわゆるコロナ特措法に基づく「緊急事態宣言」が神奈川県を含む7都府県に発令されました。
対象期間は、本日時点では、令和2年5月6日までとされており、期間内の裁判期日は軒並み取り消される予定など、私たち弁護士の業界においても影響が出始めています。
 「普通」の町(社会)で暮らす幸せを守るため、今は、社会に住む全ての個人一人ひとりが一丸となって、コロナウィルス感染拡大を防ぐための方策を行うことが大切なのではないかと感じています。
 皆さん、春の陽気に誘われる気持ちをぐっと堪え、不要不急の外出は控える工夫をするなど、出来ることから始めていきましょう。

以上

執筆者情報

弁護士名 山﨑 夏彦
事務所名 山﨑夏彦法律事務所
事務所所在地 〒250-0011
神奈川県小田原市栄町1-14-10 HM-小田原ビル2階
TEL 0465-21-3370
FAX 0465-21-3371
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